夢の中の女性

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布団の中で瞳を閉じれば、いつからともなく彼女はそこにいる。黒く艶やかな髪の毛をこの空間にそっと泳がせ、白く透き通った肌で、オーロラなような瞳で、まるで閉じ込められているように、いつもいる。一歩近づくと足元からふわりと花の香りがする。世界中のすべての幸せを色にして集めたような花びらが海のようにどこまでもひろがる。改めてそのひとをみる。ふわりと微笑む彼女の名前はユリだ。「ティナ、こんにちは」何度言葉を交わしても、毎回彼女の一言目にわたしはどきりとしてしまう。琴の音のようにささやき、鈴のように笑うのは、世界できっとユリしかいない。「こんにちは、ユリ。」「ティナは今日は何がしたい?」すぅと細められたその目を前に、わたしは思っていること全てを口にしてしまう。何も隠せない。「今日はユリとお話したい。過去に、私を傷つけた人のを思い出して今もまだ辛いんだ。」「それは大変。さぁ、おいで。」ユリはそっと隣の地面に手を置く。たたっと走ってそこに座る。ユリは私の肩に手を沿わせて、優しく、花にたっぷりと水を注ぐように私にたっぷりと愛情を注ぐ。「ティナ、彼らを許しなさい。他でもないあなたのためにね。」「謝られもしなかったのに許せないよ。」私は口をとがらせる。ユリは首を振って、若葉をなでる風のような声で言った。「じゃあ、幸せを求めて生きなさい。今のあなたが幸せになれば、きっと過去のことを忘れられるわ。」私はしばらく心のなかでぐちゃぐちゃに絡まって球状になった大きな黒い糸をみつめていた。それが徐々にほどけていくのを確認すると言った。「うん、わかった、ユリ。」ユリはにこりと笑う。
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