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ガラガラと引き戸の音を立てて、侑生は帰ってしまった。
今日という日には、ほんの少し、過去とのズレがある。過去では侑生と円満な別れ方をしなかったせいもあるけれど、お祖母ちゃんが倒れた日、侑生は既に岡山に旅立っていて、こんな風に昴夜の家に集まってはいなかった。
ということは、お祖母ちゃんが倒れるのも今日の八時過ぎではなくなっているのだろうか。そうだとしたら、しばらくは必ず夜七時頃までに帰宅するようにしなければ。
侑生を見送ってほんの十数分後、私も靴を履く。
「あー、待って、俺も一緒に駅行く」
「なんで、見送りならいいよ」
「ううん、DVD返すの」
昴夜が一度居間に戻った後、二人で揃って家を出た。雨はまた少し酷くなっていた。せっかく咲き始めた桜がこれで少し散ってしまうのだろう。
「なに借りたの?」
「バックトゥーザフューチャー」
「え、懐かしい」
思わず口走ってしまったけれど、あれは一九八五年のアメリカ映画、二〇〇七年時点で既に懐かしい映画のはずだ。現に昴夜は微塵も怪訝な顔をせず「でしょ、なんかたまに見たくなるんだよね」と頷いただけだった。
「こどもの頃はぼけーっと面白いなとしか思ってなかったんだけど、いま見ると色々発見あるんだよね。これがタイムトラベルの王道かーって」
「タイムトラベルの王道?」
「うん。見たことあるよね、冴えない主人公がタイムトラベルでうっかり過去に行って、同い年くらいの冴えないヤツがいると思ったら実は自分の父親でってやつ」
「覚えてる覚えてる。しかもうっかり自分の母親に惚れられちゃって、そのせいで両親の結婚がなかったことになるから、主人公の体の一部が消えかける……」
昔見たきりなのに、我ながらよく覚えているものだ。話しながら、頭の中には映画の映像が浮かんだ。
「そう、“両親が結婚する”って未来を変えようとすると主人公が消えちゃうんだよ。だから途中からは両親を良いムードにするために奮闘するんだよね。で、無事に両親がくっついて、主人公も消えずに済んで、未来にも戻れてハッピーエンド」
「昴夜のいう王道っていうのは、現在の自分の存在を否定するような過去の改変が許されないってこと?」
まさしく、いまの私だってそうだ。現在の私の存在の否定とまではいかなくとも、私と昴夜の関係の根本を覆すような改変は許されていない。
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