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それは、この二年間の私のことだろうか。訊くことはできなかったけれど、苦笑いを浮かべる横顔を見ると、そうかもしれないと思った。
「でも、些細なことで割り切れるようになるかな。さっきも言ったけど、あのときの自分なりに必死だったなとか、別に悪いことばっかじゃなかったなとか。そうやって考えなおして、前に進んで行くんだろうね」
来年には、付き合えるよ。卒業式になったら告白するよ。たった一週間にも満たないけれど、あの数日間を忘れないよ。
「……大丈夫だよ」
そう告げたかったけれどできなかったから、代わりに、一年後の昴夜に伝えることにした。もしかしたら、私と侑生を残していなくなった昴夜は、あの夜のことを後悔しているかもしれないから。ただでさえ、新庄を殺したというのは勘違いだったのだから。
「昴夜のいうとおり、自分なりに必死に、誰かを守りたかったんだから。そこに間違いなんてない、だから後悔しなくていい。誰に罪悪感を覚えるもない、何に囚われるでもなく――誰とでもいい、幸せになっていいはずだよ」
さよならも言わずに私と別れることになったと、いつまでも自分を責めないでいい。
さすがに突飛だったのか、昴夜はまた少し黙った。
ややあって「なにそれ」と笑い出す。
「なんか俺、物語のヒーローみたいじゃない?」
「どっちかいうとヒロインじゃない?」
「百歩譲って可愛いは喜べるけど、ヒロインみたいは喜べない。ヒーローって言って」
「はいはい」
実際、昴夜は、私のヒーローだった。
でもやっぱりそれは言えないから、笑って誤魔化した。
中央駅に着いた後、まだ時間があるからと、DVDを返却する昴夜について行った。その後、私達はもう一度同じ改札を通る。東西線と南北線の改札口は同じだった。
「じゃ、また……学校に行くより前に遊ぶかな」
「かもね。でも名残惜しいから東西線まで行こっと」
東西線の階段を一緒に降りると、ちょうど電車がきた。乗ろうかと思ったけれど、私も名残惜しくて、一本見送ることにする。車両はしっかりびしょぬれで、外が大雨に変わっていることが分かった。
「やだな、駅から家まで歩くつもりだったのに」
「帰る頃にはやんでるんじゃない?」
なんの根拠もなさそうな口ぶりだったけれど、昴夜がそう言うのならそんな気がした。
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