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「イキりっぽいから秘密ね」
ハーフなんだからイキりもなにもないのに、と笑いながら電車に乗った。
「じゃ、ばいばい」
「んー……」
電車の中から手を振って、昴夜も手を振り返してくれて――扉が閉まるまでのその短い間に、そのまま手を後頭部にあててちょっと考え込む。
「……あのさ英凜」
「ん?」
「……さっき言いたかったのは……過去は変えられないけど、未来は変えられるっていう話で。ん、なんかこう言うとチープなSFっぽくなっちゃうんだけど」
顎に手を当てて考え込む素振りは照れ隠しのように見えた。
告白だろうか。少しだけドキドキした。こんなところで告白されたら未来が変わる。でもそうだ、私と違って昴夜には制約がないし、今までの微細な変化の積み重ねで、もしかしたら変わったものがあるのかもしれない。
未来は変わらないと思ったけれど、いまから私達が付き合って、変わる未来があるのかも――。
「だからほら、修学旅行で言ったけど、侑生のことよろしくねっていうのは……きっと、侑生は、いまの英凜を元気にしてくれるから。俺はずっと、英凜のことが――……英凜が、幸せになっててくれたらいいなって。ずっとそう思ってたんだ、俺」
それなのに、告白ではなかった。
いや、そうじゃない。呆気にとられた私は、そのまま動けなかった。告白ではない、けど、それは。
スン、と昴夜が鼻をすすりながら、ちょっと視線をさまよわせて――もう一度まっすぐ私を見る。笑った顔が泣いていた。
「俺にも、幸せになっていいって言ってくれて、ありがとね。元気でね、英凜」
――ああ、そうだ。そこで全てが繋がった。
だって昴夜は、変だった。
昴夜は、ハーフだったけれど、英語が特別できた覚えはない。それなのに修学旅行では流暢に喋っていた――事件後の昴夜は、担当弁護士によれば、母方の親戚を頼ってイギリスに旅立っていた。
いまの昴夜は、いつだって侑生への嫉妬と私への好意を素直に口にして、でも「好き」は絶対に言わなかった。
あれは、言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。
「……嘘でしょ」
そう口にした私の声は、掠れていた。
手を伸ばした先で、扉が閉まった。ドン、と拳に変えた手で叩いても、もう一度扉が開くことはない。
「昴夜も、私と同じ……!」
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