8人が本棚に入れています
本棚に追加
それでも、もし、あの日、同じように、昴夜が私の家を訪ねようとしていたのだとしたら。そのために中央駅に降りたのが、私とまったく同じタイミングだったのだとしたら。
南北線のホームへ向かう階段を、ぞろぞろと人々が上ってくる。電車が着いたのだ。その中に昴夜はいない。転がり落ちるように駆け下り、でも、ホームには電車もない。田舎の駅のホームらしく、人もまばらだった。
それでも。そのまばらな人影の中に、その人はいた。背が高く、白いシャツと、ブルーのハーフパンツを履いていた。
後ろ姿で分かるのは、西洋人らしい長い脚と、犬のようにふわふわの栗色の髪だけ。
「……昴夜?」
呼ぶ声が、震えていた。
私は、いまの昴夜の顔を知らない。それでも、振り向いたその驚いた顔を見た瞬間に、そうだと確信した。
飛びつくように抱き着けば、待っていたかのような力強さで抱きしめ返された。
言葉は出てこなかった。口を開けたら、そのまま泣き出してしまった。子どものような泣き声が、駅のホームにこだました。
お互いに一言も話せなかった。でもきっとその一言以外、いまの私達には要らなかった。
「ただいま」
最初のコメントを投稿しよう!