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「ごめんなさい、遅れました」
「英凜、よかったー、仕事終わんないっていうからそのままキャンセルかと」
「失礼な、遅れはしても約束は守るよ」
口を尖らせながら着席し、「三国英凜です、人数合わせです」と名乗ると、隣の同期に蹴られた。
「そんなこと言って、実は楽しみにしてたんでしょ。いつにも増して可愛いよ」
「なんで女同士が口説いてるんですか」
笑いながら、目の前の人が口を挟んだ。ほんのりと関西弁のイントネーションで、さすが浪速大学卒、と心の中で呟いた。その人は桂と名乗った。弁護士が先生と呼ばれるように、私達も医者を先生と呼ぶべきだろうか、ちょっと悩んだ。
「でも本当、今日の英凜、なんか顔色いいよ。厄介な仕事でも片付いた?」
「んー、どっちかいうと厄介な電話はしてきたんだけど」
事務所を出る直前にかかってきた電話のことを思い出す。胡桃の代理人に就任した弁護士は「依頼者はまったく身に覚えがなく、これこそ中傷と怒り心頭でして」と強気なことを口にしていて、合わない熱血タイプだなと辟易した。とはいえ、なにがなんでも裁判外交渉をとウェブ会議の予定をとりつけてきたあたり、本件の幸先は悪くない。
「ちょうど休みとって、一昨日まで地元に帰ってたの。それで結構リフレッシュできた」
「あれ、英凜ってずっと東京じゃないんだっけ」
高校までは違ったのだと一色市の話をすると、さっきの桂先生が「それなら、うちの同期にもおりましたわ」と表情を明るくし、私は驚いて顔を向ける。
「今日も来るんちゃうかな、一人、当直のバイト代わり見つからへん言うて、代打頼んだって聞いてるんで」
「悪い、遅れた」
狼狽する間もなく現れたその人物に、私は息を呑む。
「……なんだこれ」
「お、タイミングばっちりやん、持ってんなお前」
「……ちゃんとした飯予約したから代わりに行ってくれって言われてきてんけど、そういうことか」
「まーまー、座って座って。ちょうどお前の話しててん」
その視線が、私に向けられる。
「三国先生、コイツ、いま話そうとした雲雀侑生」
きっと、お互いに同じ顔をした。
「高校時代の元カノ引き摺り続けてるメンヘラやねんな」
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