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本当に、懐かしい。東京とは違う雰囲気の電車に乗って、座って窓の外を眺める。山より高いものが空以外ない景色は、昔と変わらない。町というのは十余年経てば様変わりするものだけれど、田舎はそうではない。新しいものが入ってこない田舎は、ずっと時を止めているのだ。
たまに、失くなるものもあるけれど。
その景色に、雨粒が割り込む。ほんの少し窓に斜めに貼りついていたそれは、あっという間にバケツを引っ繰り返したような水に呑まれる。夕立だ。叩きつけるような豪雨に襲われ、電車の音に雨音と雷鳴が混ざり始めた。でも、遠くの空は明るいオレンジ色に照らされている。あと一本、電車が遅ければ捕まっていたかもしれない、運がよかった。
……あの日も、大雨だったな。
電車が地下に潜り、見る景色もなくなり、スマホに視線を落とす。ちょうど事務所のアドレスにメールが届いた、担当事件の期日が決まったという連絡だった。手帳を開いて予定を書き込んで――……挟んである紙切れを手に取る。十三年前の週刊誌の見開き一ページだ。
そのページは、〈一色市のレンタル倉庫において、新庄篤史くん(18)の死体が発見された〉という一文から始まり、一色市を席巻していた当時の“不良”について〈まるで反社会勢力の雛〉で、〈彼らの行いは未成年飲酒、無免許運転、暴行・傷害、強姦なんでもあり。その果てが、今回の殺人である。〉と十把ひとからげに語る。
〈事件の犯人はK.Sくん。K.Sくんは、事件の数日後、自ら警察に出頭した。〉
そして、K.S――桜井昴夜についても。
暗記してしまうほど読んだそれをもう一度読んで、また手帳に挟んでしまいこみ、涙が溢れるのを止められなくて目を閉じた。
今から十三年前、私が高校を卒業した年の三月十日、同い年の男の子・新庄篤史が殺された。彼は今でいう半グレで、まさしく反社の雛といっても過言ではなかった。事件当時も、少年院を出所してほんの数ヶ月かそこらだったはずだ。
その彼を殺した犯人だと名乗って自首したのが、昴夜だ。
私がずっと大好きだった、桜井昴夜。
昴夜が事件を起こした本当の原因は、週刊誌には書かれていない。どんな捜査資料にも載っていない。
それでも私は、それが“私”だと知っている。
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