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だから、もしも、私があのときに違う行動をとっていれば、昴夜が事件に巻き込まれることはなかった……。
「〈まもなく、中央駅、中央駅……〉」
アナウンスが聞こえて、目を開ける。まだ涙は渇ききっていなかった。
昴夜に会いたい。心に浮かんでいたのはそれだった。昴夜の家は、何度か遊びに行ったことがあるから知っている。ちょうど中央駅から南北線で数駅、そこから歩いてすぐだ。
もうあそこにいないことは知っているけれど、それでも、昴夜がいたあの場所に行きたい。
「〈中央駅、中央駅……お降りの方を先にお通しください……〉」
電車を降りて、地下のホームから階段を上る。近くにエスカレーターはなかった。一段一段に「0.2kcal消費!」と掲出された階段を眺めながら、一歩ずつ上っていく――。
あれ?
その途中で、カロリー消費の表示が消えた。
張替えでもしているのだろうか。はて、と首を傾げながら足を踏み出したとき、ガクンと階段を踏み外しそうになって慌てて手すりを掴み――目を見開く。
「……え?」
見下ろした足は、オープントウのサンダルの代わりに、シンプルなスポーツサンダルみたいなものを履いていた。それだけではない、ブラウスの代わりにティシャツを着ているし、ショートパンツはティシャツの裾に隠れそうなほど短くなっている。
何かがおかしい、訝しみながら階段を上りきったけれど、私が立っているのは、中央駅の改札口だ。
でも何か……。行き来する人々に、何か違和感がある。その正体は分からないけれど、どこか現実じゃないと思えてならない、妙な違和感が……。
ここは、本当に中央駅なのか。反射的にスマホに頼ろうとバッグに手を伸ばし、自分が持っているのはクロスボディの安っぽいカバンだと気付く。
「……あれ?」
そして、その中に入っていたのはガラケーだった。
これは一体、どういうこと?
「英凜」
つるっと光沢のあるガラケーの表面に映っている自分を見る。一瞬誰か分からなかったけれど、間違いなく自分の顔だ。
「英凜」
――ただし、高校生の。
「英凜、こっち」
ハッと顔を上げると、改札の向こう側で手招きしている男の子がいた。
銀髪の、よく知っている男の子。
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