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「K君。今まで冷たくしてきたけど、本当は私アナタのこと大好きなの。どうか私の気持ちを受け取って下さい!」
そんな言葉と共に、少し恥ずかしそうな笑顔で上目遣いをしてくる、同じクラスのメガネ女子から渡されたピンク色のリボンが目立つ小さな箱。
クラスでバカ騒ぎする男子達の一人として、さげすむような冷たい視線をいつも彼に投げかけていたクラス委員長でもあるメガネのあの子。
まさかあの子が、という思いよりも、人生初めての女性からのプレゼントをもらう、そんな事件で舞い上がってしまう彼。
家に帰ってから開けるのももどかしく、お昼休みに体育館の裏に行くと急いでリボンと包装をほどく。そしてドキドキしながら箱を開ける。
すると……
ボンッ!
箱の中から多量の煙がもうもうと立ち上がる。
* * *
げほ、げほ。
煙が晴れると、そこは武家屋敷の裏手のような瓦付きの高い塀が延々と続く、ひとけのない通りだった。
彼はいつの間にかサムライの格好をしている。
そして、彼の対面には、なぜか忍者の装束を身に着けて彼に向かって戦う構えをしている委員長が。
「さすが、腕の立つお役人様ね。私の正体がくノ一だなんてよく見破ったわ」
「ちょ、ちょっと。なんでコスプレなんかしてるんだ、委員長?」
彼は、今の立場をのみこめずに委員長に問いかける。すると、怪訝な顔をした委員長は膨らみのある胸元からけむり玉を取り出して、彼に向かって投げつける。
ボンッ!
彼と委員長のいる場所は、あっという間にまっしろな世界に。
* * *
げほ、げほ。
白い煙がうっすら晴れると、そこは中世の街並みのようなレンガつくりの人気のない通り。
「やっと追い詰めたわ、魔王軍の四天王が一人、暗黒の魔導士。正義の魔法使いとして培った私の魔法を受けてみろ!」
「ちょちょ、ちょっとタンマ、委員長」
彼の目の前には、こんどは一見して魔法使いとわかる帽子とローブを羽織った委員長が、魔法道具らしい杖を彼に向けて詠唱をはじめる。
いかにも悪役といった感じの真っ黒でドクドクしい服装をした彼は、攻撃をやめるように委員長に向かって両手を向けながら叫ぶ。
「両手を使って反撃するつもりね。でももう遅いわ、あなたの反撃が来る前に私の魔法は発動するのよ」
魔法使いのキャラクターになっている委員長の魔法の杖から繰り出される光はあたりを飲み込み、すべてが白くなっていく。
* * *
気が付くと、彼は体育館の裏で倒れていた。
昼休みの終わりを示す予鈴は体育館の裏手まで鳴り響いている。
彼の横には委員長からもらった箱が地面に落ちていた。その箱の中には、小さな液体が入っていたらしい小瓶と、『今日は4月1日ですね』というメッセージが書かれた紙が、入っていた。
なんだこれ。
委員長がしかけた、エープリルフールの手の込んだいたずらだったのか……
彼は、よろよろと立ち上がると、午後の授業に間にあうよう、箱をそのままにして教室に戻る。
* * *
時間は少し巻き戻ってお昼休みが始まったばかり。
委員長はお弁当を食べながら、少しほっとしていた。長い間かけて準備していたプレゼントを彼に渡すことができたから。
時代劇と異世界ファンタジーのライトノベルが好きだって、いつも休み時間に男子同士の会話で言ってた彼。
だから、彼が気に入ってくれるように、時代劇と異世界を体験できる薬を、クラスのみんなには内緒にしている魔法少女の能力を駆使して調合した委員長。
そして、最後にエイプリルフールと間違えないように、『4月1日ですね』という紙と、『でも、私が君を好きなのは本当だよ』という紙を箱の中に一緒にいれておいた。
今晩彼が自宅に帰ってから、渡した小箱で経験する不思議なできごとを想像して、彼女はお弁当を食べながら、ほほを赤く染めた。
(了)
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