零れる

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「ふふふふふふ……」  帰り道、笑いが止まらない私に、史実くんはばつが悪そうに何度も髪をかき上げている。 「笑うなよ」 「史実くん、武闘派。途中、巻き舌だったよ。ふふふふふふ」 「勘弁して、マジで」 「史実くん、私には気にするなって、散々言ってたくせに」 「いや、あれはないだろ。体調悪くて倒れてんのに、男の気引きたくて倒れたみたいに言われんの、お前腹立たないの」 「うん。平気。だって、史実くんがキレてくれたから。史実くん、あれ目立つよ。もう大人しぶるのやめて、素を出していこうよ」 「あー、もう。俺の平和な高校生活、ボロ出て来てんだよ」 「いいじゃん。ね、楽しいでしょ」 「若干、お前のせいだしな。お前何しても誰かに何か言われるじゃん。一緒にいると俺も言われんの」 「迷惑? 」 「うぇ、お前絶対『そんなことないよ』待ちで聞いてるだろ」 「せいかーい。史実くんの優しさに付け込んでまーす」 「俺、優しかないけどな」 「優しいよ」 「そっかな」 「よぉおおし。テストも終わったし一杯やるかー! 史実くんお菓子買ってこ」 「俺、バイトまで寝る」 「仕方ない。史実くんの寝顔見ながらじゃがりこ食べるか。アイスもいいよね、暑いから」 「アイスは俺も食う」  優しいよ、史実くんは。自分の事だったら怒らないんだから。愛おしい史実くんの巻き舌を思い出して、私はまた笑った。ちょっとだけ、涙が出たけど。  
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