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「でも……私」
「せりと一緒にいたいんだよ、俺も」
何て言っていいかわからず、私はただ笑顔を返す。
「自由な奴の横では、俺も気を使わなくていいからな」
「ちょっとジーンときてたのに、もう! 」
「はは。でも、そうなんだ。お前の好意は純粋で、他の複雑な気持ちなんて混じってないだろ。だから、一緒にいて落ち着く。お前いなかったら俺、どうなってただろって思うわ」
とても嬉しいけど、私の気持ちは史実くんがそう思ってくれるほど純粋なものではない。元気でいてくれたら、会えたら、顔が見れたら、史実くんが幸せなら、そんな気持ちはどんどん変わってしまった。
「史実くん、そう言ってくれて嬉しいけど、ごめんなさい。私の気持ちはもう純粋じゃなくなってしまって。欲望だらけだよ」
「……欲望って何だよ」
「史実くんを前に邪な気持ちが止められない」
「よこ……しま? 邪悪なやつか。例えば? 」
「今だって、キスして欲しいもん」
「は、ふ、はははは! なんだよ。かわいいな、お前。んなことかよ、それなら俺だって……。いや、何もない」
言いかけてやめた史実くんに詰め寄ろうとしたけど、色仕掛けに負けてしまった。史実くんが、小さなキスをくれたのだ。いや、キスでごまかしたな。
「あのな、お前からキスしてくれてもいいんだぞ。嬉しいと思うな、きっと」
そう言って、目を閉じるから、戸惑いながらもキスをした。自分からキスをするのは2回目だ。
「ほら、やっぱ、めちゃくちゃ嬉しい」
史実くんが、子供みたいに笑った。またじんわり泣きそうになって、私は慌ててうつむいた。
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