零れる

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 ――この日はテスト最終日で、午後の試験は1教科だけだった。 「もうすぐ夏休みだね、史実くん」  帰り道に史実くんをつかまえて一緒に帰る。史実くんも抵抗しない。程よく諦めることを覚えたらしい。 「いや、まだまだじゃん」 「そうでもないよ、もう来月だよ」 「……そっか、そうだな」  今日はバイトまで時間があるなぁと考える。テスト明けのグラウンドは部活生で活気があって、その中に見知った顔を見かけた。野原先輩だ。私を見つけて手を振ってくれる。私も一礼して控えめに手を振った。野原先輩は、周りの男子に「誰?」みたいに聞かれたり、小突かれたりしていて、私もちょっと恥ずかしい。 「ああ、あの子」  通りすがりの女子にも見られてひそひそ声が聞こえる。――あー、だから控えめに手を振ったのに、会釈だけにしとけばよかったかな。と思っていた。 「わざと野原の前で倒れたんじゃない? 」  そう聞こえて、それはさすがに酷いな……と振り返った瞬間だった。 「んなわけねーだろ! 」  史実くんが怒鳴った。下校中の生徒はそれなりにいて、サッカー部までは聞こえないにしろ、その子たちはビクリと肩震わせ、逃げるように小走りで去る。 「おい! 」  史実くんはまだその子たちの背中に怒鳴る。 「史実くん、史実くんって」  史実くんの大きな声に私の心臓がバクバクする。走って追いかけそうな史実くんの腕を持って止める。史実くんの頭に血が上った顔が、次第に正気に戻る。 「……悪い」 「んーん、大丈夫」  私は首を横に振った。  
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