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小さな桜の木の下で
オーナーが階下に降りた後、春樹は桜の花びらが描かれた徳利を手にした。
そして舞花の目の前に置かれた盃を持つように促す。
「舞花先輩、ほら、飲みましょう」
促され、舞花は慌てて両手で盃を持つ。
徳利が傾けられ、盃に静かに日本酒が注がれる。
そして注がれている日本酒を見ると、何やらキラキラした金色が見えた。
「わっ…!!…金粉だぁ」
「おっ、本当ですね」
注ぎ終わった盃を覗くと、桜の花びらの上に金粉が舞っていた。
「桜の下ではないけど、素敵なお花見だね」
「オーナーのお陰ですね」
手酌で盃に注ごうとしている春樹の手に触れ、舞花は制止した。
春樹はその意図に気付き、徳利を舞花に手渡した。
「ありがとうございます」
嬉しそうにする春樹が手にした盃に、舞花も同様に日本酒を注いだ。
そして二人で盃に口をつけた。
「確かに桜の木の下ではないですけど、こんな花見も良いですね」
舞花の言葉に春樹が返す。
その言葉を聞いた時、舞花は閃いた。
「無理矢理、桜の下で飲む?」
「どういう事です?」
意味が分からない春樹は、舞花に聞き直す。
「潜り込んじゃうのだよ、ハルちゃん❤︎」
「…もう、『ハルちゃん』は止めてくださいよ」
春樹の言葉に、舞花は笑う。
そして春樹の答えを待たずに、舞花はテーブルに寝そべるように身をかがめ、テーブルの盆栽の下に潜り込む。
「ほら、桜の木の下。」
「ハハッ、舞花先輩は年齢の割に無邪気ですよね」
何気に失礼な発言をしながらも、春樹も舞花に従った。
すると、桜の下で二人の視線が交わった。
「…ハルちゃん❤︎」
「…からかいすぎですよ」
舞花が『ハルちゃん❤︎』と呼ぶ事に、春樹は少し顔を赤くしながら不貞腐れたような表情を見せた。
しかし舞花は構わずに言葉を続けた。
「『お花見』、凄く…感動した。…ありがとね。」
「…どういたしまして」
春樹が少し赤い顔のまま、笑顔を返した。
「…何だか、『愛』を感じたよ」
舞花も釣られるように顔を赤くしながらそう言った。
すると春樹は動揺したのか、「え?…は?」とアワアワしだし、身体を勢いよく起こした。
そんな春樹の身体は桜の盆栽にぶつかり、盆栽がグラリと倒れそうになる。
それを春樹は慌てて両手で抱え上げ、そのまま立ち上がった。
「…ビッ…クリ…した」
春樹の顔は真っ赤だ。
そんな様子の春樹に、舞花はクスリと笑った。
そしてテーブル越しに舞花も立ち上がった。
お人好しの後輩。
未だに、今日の『お花見』をする為に自分がした事は口にしない。
だけど舞花は、そんな春樹の『愛』を感じたのだ。
そんなの、堕ちるに決まってる。
身動きが取れない春樹に向かって、テーブルに身を乗り出し、舞花は春樹に近付いた。
そしてそのままアワアワしている、たった今、自分が恋に落ちたお人好しな後輩の唇に自分の唇を重ねた。
音の無い空間に、チュッと小さなリップ音が響いた。
「…間違ってないよね?」
自分のした事に、今更羞恥心が湧き上がり、舞花は顔を真っ赤にした。
「…間違って…ないです。…貴方の事が…大好きなので、…喜んで欲しかった…んです」
春樹は、手にした盆栽をテーブルに置いた。
そしてテーブルに両手をついた。
春樹も、舞花にゆっくり近付いた。
「…好きなんです」
二人の距離が無くなり、再び唇が重なった。
お互いの唇を食むようなキスをし、少しだけ離れた。
「ハルちゃん❤︎」
「…からかってばっかいると…仕返し…しますからね?」
照れ隠しで春樹を「ハルちゃん」と呼んだ舞花に、春樹は『仕返し』のキスをした。
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