和食の板前さん

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和食の板前さん

階段を登りきると、下の店舗部分と同じ広さのフロアが現れた。 そして、そこにはアイランド型のオープンキッチンと、そのキッチンの正面に長方形のダイニングテーブルセットがワンセットだけ置かれていた。 「いらっしゃいませ。」 オープンキッチン前で出迎えてくれたのは、和食のコックコートを着用した板前さんだ。 「今日はすみません、ありがとうございます」 春樹は笑顔で挨拶を返す。 「ハルちゃんの頼みだからね。」 板前さんはそう言うと、春樹の二の腕を軽くポンポンと叩いた。 「…ハルちゃん❤︎」 「…もう、舞花先輩、くどいですよ」 からかってくる舞花に、春樹は少し不貞腐れたような顔をしながら、舞花を席に案内した。 春樹が椅子を引いてくれたので、舞花はその席に着席する。 そしてテーブルには和食、会席料理がズラリと並んでいる。 「本来であれば先付から順を追ってお出し致したいのですが、中居を連れてくる事が出来なかったので、申し訳ありませんがまとめてお出ししております。」 板前さんは頭を下げて、謝罪する。 「いえ、こちらこそこちらまで足を運んでもらってありがとうございます。」 春樹は座ったまま、小さく頭を下げる。 「温かいうちにお召し上がりください。」 笑顔で食事を促す板前さんは、とても自信ありげに胸を張ってそう言った。 「美味しそう」 「では、ごゆっくり。私はこれで…、失礼致します。」 そう告げて板前さんはその場を去り、その時から二人きりの空間になった。
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