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小さな花見会場
豪勢な、二人分の会席料理が並ぶテーブルは、食事をする前から目にも鮮やかで楽しませてくれる。
「…凄いね…。豪華絢爛…」
「はい。お腹も空きましたし、口も満足させましょうかね。」
舞花の正面に座った春樹は、いつもの様にからかったような視線を舞花に送る。
「舞花先輩、ほら、『団子』ですよ?」
「ちょっと!どれだけ私の事を食いしん坊だと思っているのよ!」
そう言いながらも、舞花の手は既に割り箸を手にしていた。
その様子を見ていた春樹は、『そういうトコです』と笑いながら言う。
「そして、小さいながらも『お花見』ですよ」
春樹はテーブルの真ん中に指を指す。
そこには桜の盆栽が置かれていた。
高さにすると、70か80センチ程の高さの桜は既に満開で、その儚くも美しい花を咲かせていた。
二人のいるフロアは照明の照度が絞られていた。そして二人が座るテーブルの真上にダウンライトが設置され、そこからの光がちょうど桜をスポットライトの様に照らしていた。
「桜の盆栽ってあるんだね。初めて知った。」
舞花は、盆栽についての知識は無かった。
知っている事と言えば、せいぜい『松』を使った盆栽が世の中にあるというくらいか。
「俺も詳しくは無いけど、結構盆栽っていろんな種類を使って出来るみたいですよ?」
同じく、盆栽にはあまり詳しくない春樹も大雑把な知識を披露する。
そうして二人の『お花見』は始まった。
◇◇◇◇◇◇
二人はたわいのない会話を楽しみながら食事を堪能した。
「美味しいぃ〜!!部長、ありがとう!!タベルナのオーナー、板前さん、ありがとう!!」
1品、1品を食べる度に、舞花は部長やオーナー、板前さんに感謝の意を述べる。
「凄い美味しい〜!!花菱の料理もこんなに美味しいのかな?」
堪能し、喜びを表す舞花の頬も興奮のせいか、それともアルコールのせいか、ほんのり赤い。
食事が終えるまで、何度『感謝の意』を述べたことか。
最初はニコニコとその言葉を聞いていたが、そのうち春樹は少し不貞腐れたような表情を見せ始めた。
「失礼します。ご堪能頂けましたか?」
そんな二人の席に寄ってきたのは、タベルナのオーナーだった。
「はいっ!!本当に素晴らしい料理でした!!」
張り切って応える舞花の横で、春樹の携帯が鳴った。
「あ、すみません、少し席を外します」
簡潔にそう言うと、春樹は部屋の外に出た。
「お下げしますね。そんな風に喜んでもらえると、作った者も喜ぶと思います。」
そう言って、オーナーは手早くテーブルにある食器を下げてしまう。
そして再びテーブルに戻った。
「…ハルちゃん、この食事の事…何か言ってましたか?」
「…え…?…いや、特に何も…」
「…そうですか。…この料理…何処かの料理と似てませんか?」
オーナーは意味深げに話し始める。
「…今日、本当は会社のお花見で『花菱』のお弁当を食べるはずだったんです。…それで…、花菱の料理もこんなに美味しいのかなぁ?って話していたんですけど…」
今日ここに来る切っ掛けになった事を、舞花はオーナーに説明した。
オーナーの問に対して正確な答えかは分からなかったが、会席料理イコール花菱と繋げた。
「…聞きました。それでハルちゃんがココに予約を頼まれまして…」
「じゃあ、本当に急に予約を入れたんですね。ありがとうございます。」
「いえいえ。ハルちゃんには、今回の板前と、私自身も返しきれない程の恩があるんで」
微笑みを深め、オーナーはジッと舞花を見た。
「それで、少し話が戻りますが、舞花さん、正解ですよ」
見つめられた舞花は頭を捻って思った。
何が?
舞花は少し鈍い、察する事が少し苦手なタイプだった。
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