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「腹ガ痛イ」
そんな声が聞こえて、思わず周囲を見渡すも、倉庫の中には俺とコイツだけ。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、これはもう体の中に毒が回り始めて幻聴でも聞こえているんじゃないだろうか。
だって、コイツが話すわけ……。
「オマエ、医者ナンダロ? ダッタラ治シテヲクレヨ」
真っ赤な目をした灰色の毛玉、その姿は犬でも猫でも、そしてドブネズミでもない。
奇妙な生き物だったのだ。
何か言わなきゃと思うのに、喉がカラカラになっちまったように声が出ない俺に対し。
「ナンダヨ? オマエ、喋レナイノカ?」
咄嗟に頭を振ってから反応してしまったことに、後悔をした。
「……、お前、一体なんなの? どこから来た?」
虚勢を張ってみせたけど、必死に振り絞った声が震えていてめっちゃビビってるのはバレてるだろう。
「ドコカラ? 生マレタ時カラ、ズットココニイタ。オマエガ、見エテナカッタダケ」
時折、腹が痛むのか赤い目が苦し気に歪む。
猿ともつかない、パっと見た感じは手足も毛玉の中に埋もれているようなヘンテコなやつ。
「オマエ、青木ダヨナ? ヘッポコ医者ノ青木。コノ間モ、患者ニ揶揄ワレテタヨナ、誤診シテ」
「う、あれは、見間違えただけだ。失礼なことを言うな」
つい二日前、CTに写る腹部を指しながら。
『左の腹部には、異常は診られませんよ、良かったですね』
『青木先生、残念ながら痛いのは右じゃあ』
と腹痛で受診したじいさんに笑われた。
クソ、変なとこ見られてた。
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