どうして私が部長に

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 私が通う私立碧泉学園高等学部は、全員部活は強制入部と決まっている。時間割に“部活”の項目があるほど力を入れていた。  そんな中、写真部は去年から人数不足が原因で廃部の危機を迎えていた。一年生への勧誘を必死にした結果、入部したのは四名の男子。廃部は逃れたものの、今度は活動自体に支障をきたしている。  入部をした彼らは、とにかく部活に顔を出さない。籍だけ置いて、後は適当に過ごしているいわゆる幽霊部員なのだ。しかし、碧泉学園の仕組み上幽霊部員は存在してはいけない。  先輩方を送り出すと、私は落ち込みながら椅子に座った。 「……先輩たち、文化祭までいてくれると思ってた」 「うん……寂しくなるね」  同じ二年生の田宮歩(たみやあゆむ)が小さく笑う。  彼は私にとっての部活に存在する唯一の希望。すらりと身長の高い彼は、少し長い前髪で眼鏡をかけている。物静かな雰囲気を持っていて、凄く穏やかな人。  田宮君が部長でもよかったはずなのに、榎本先輩は「田宮君だと優しすぎるかな」という理由で私に決めた。  私も優しいです、先輩。それどころか、気弱で臆病です。人前に立つのも、部長としてまとめるのも向いてません。  半泣きで抗議をしたものの「秋野さんなら大丈夫」という謎の確信を持った榎本先輩に、却下されてしまったのだ。結局、田宮君は副部長になってしまった。  三名の三年生は、全員受験勉強に力を入れるようで引退を選んだと言っていた。どの部活でも共通しているのが、三年生の引退は顧問が認めれば成立するという仕組みだ。  うちの顧問は職員室内最年長の川端先生。のんびりとした性格のおじいちゃん先生でとても優しいので、簡単に許可は下りる。 「写真部は活動少ないけど、拘束時間が減れば勉強しやすくなるから。仕方ないよね」 「……うん」  仕方ない。田宮君のその一言に尽きる。私達には引き止めることができなかったし、送り出した以上戻ってきてくださいと言うこともできない。それなら、今目の前にある問題に向き合うべきなんだ。  
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