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ある程度撮影すると、私は一ノ瀬君の方に近付く。
「見てもいい? よければ私のも」
「はい。俺も先輩の写真、見たいです」
一体どんな風に撮ったのだろうと、気になって口に出せば、快く承諾してくれた。お互いのカメラを交換してデータを見てみる。
「わぁ……」
そこには、自分が被写体になっているとは思えないほど、綺麗な写真だらけだった。特に最初に取った写真は、我ながらに良い笑顔をしており、一ノ瀬君は抜群のタイミングで撮っていた。
「……一ノ瀬君は人を撮る才能が凄いね」
「本当ですか?」
「うん。なんか、自分が映ってる写真に言うのも照れ臭いんだけど、一ノ瀬君が撮ると、自分が少しは綺麗に見えるから」
一眼レフカメラの質が良いということもあるけど、なかなか人を綺麗に撮るというのは簡単なようで難しいことだ。おまけに私は動いていたので、シャッターを切ったタイミングはセンスがとてもよかった。
「……先輩は、俺が撮らなくても綺麗ですよ」
「え?」
「綺麗です、先輩は」
聞き間違いかと思って反応をすれば、その考えを消すように一ノ瀬君は重ねた。こういう時、どんな反応をするのが正解か、私は答えを持ち合わせていない。動揺した結果、私は純粋な気持ちをこぼした。
「あ、ありがとう。でも、一ノ瀬君の方が綺麗だし、カッコいいよ」
なにせ、学内にファンクラブがありますからね。
それを抜きにしても、本当によく整っている顔だ。
褒められ慣れているであろう一ノ瀬君にとっては、こんな言葉何ともないだろうと思っていれば、彼はかあっと頬を赤くさせた。
「……ありがとう、ございます」
そう小さく返すと、一ノ瀬君は目線を私から反らして下に向けてしまった。
えっ、何その照れた顔。
あの一ノ瀬梓でも、顔について褒められても反応するんだ……。凄く意外だな。
予想外過ぎる表情に、それこそ可愛いなと感じてしまった。
「次、行きましょう」
「あ、うん」
照れた顔を隠すように、一ノ瀬君は一歩先を歩き始めた。ちらりと見えた横顔は、まだほんのりと赤く色付いていた。
……やっぱりイケメンでも、褒められると嬉しいのかな。
そんなことを考えながら、どんどん花を撮っていくのだった。
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