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最後は水のエリアで、水と花が融合している場所だった。
「凄い……」
元々の花も美しい上に、水面にそれが反射して幻想的な光景になっている。これは撮影し甲斐がありそうだ。
「一ノ瀬君。今人が少ないから、たくさん撮ろう」
「撮りましょう」
先程のひまわりエリアでの赤面とは打って変わって、元通りになった一ノ瀬君。いつも通り、落ち着いた声色で返してくれた。
「……凄い。水面まで綺麗に映るんですね」
「スマホでも映るけど、個人的にはカメラの方がより綺麗に映ると思う」
「……俺もそう思います」
その言葉は、単純だけど私にとっては嬉しくて仕方ない言葉だった。きっとカメラに触れて色々なことを知って来た、一ノ瀬君の背景を知っているからだろう。
「時間的にもエリア的にも最後の場所なので、頑張って撮影しよう!」
「はい、頑張ります」
幻想的な雰囲気を、いかに写真に落とし込んで伝えられるかは大切だと思う。何回も重ねて写真を撮っていくが、あまり納得のいく写真は撮れなかった。
なんか、いま一つ足りない気がするんだよなぁ……。
一度カメラを下ろして、周囲を見渡す。どこが一番幻想的だろうと考えていれば、それはすぐに見つかった。
引き付けられるように、カメラを構えた。
カメラ越しに、私の視界には一ノ瀬君の美しい立ち姿が映る。彼の端正な横顔が、花と水のエリアに重なり合って、混ざり合って、より世界が幻想的になる。
「……綺麗」
カシャッとシャッターを切った。
その音に反応するように、一ノ瀬君はこちらを向いた。
「……あ、ごめん」
「俺を撮ったんですか?」
「うん。あまりにもここ雰囲気に合ってたから」
「そうなんですか?」
私は自分の撮った写真を確認する。
うん、いい写真が撮れた気がする。
普段は考えてから撮影するので、衝動的にシャッターを切ることは少ないのだけど、一ノ瀬君の時は違った。
「うん……ほら、見て」
少し離れた場所にいる一ノ瀬君がこちらに近付いてくると、私はカメラを渡して今撮った写真を見てもらった。彼は一度目を見開くと、そのまま真剣な眼差しで写真を眺めた。
「……やっぱり、先輩は凄いです」
「一ノ瀬君が素敵だからだよ」
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