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被写体がよすぎたので、私が撮っても綺麗に撮ることができた。
「……俺、あんまり自分の容姿を好きだと思ったことはないんです」
「そうなの?」
「はい。……この見た目を理由に、トラブルとかあって」
ポツリポツリと、一ノ瀬君は自分について語った。
「特に女性関係でいい思いをしたことはあまりなくて。正直ファンクラブとかも嬉しくないんです」
「そうなんだ……」
一ノ瀬君には、一ノ瀬君なりの悩みや葛藤があるのかもしれない。
「ごめんね、そうとは知らずさっきはカッコいいとか言って……」
「いえ。先輩になら何度言われても嬉しいです」
「え」
その言葉の真意がわからず、意味を考えようとするものの、そんな暇さえ与えないというように一ノ瀬君は続けた。
「俺、写真部で活動したいと思えたのは、先輩の写真に惹かれたからなんです。あの紫陽花に強く引き込まれて」
「そ、そうなんだ」
私はてっきりあの日のお説教が、一ノ瀬君の心も動かしたのだと思っていた。
「やっぱり、俺は先輩の写真が好きです。……この写真の自分の姿は、初めて好きだと思えました」
それは良かった。そう口に出す前に、一ノ瀬君は笑った。それは作り笑顔でも、ふっという小さな笑みでもなくて、凄く美しく、嬉しさを宿した満開の笑み。
「今は写真だけじゃなく、先輩にも惹かれてます」
そう言うと、彼は私の瞳を真っすぐ見つめた。そこには熱がこもっており、真剣な言葉だと思うには十分なほど強い眼差しだった。
「先輩、好きです」
まさか一ノ瀬君から告白をされるとは思いもしなかった私は、驚きのあまり声を失ってしまった。
意図せずじっと見つめう形になってしまう。
何分経ったかはわからないけど、ようやく頭の整理が追い付いた時、私は戸惑いしか浮かばなかった。
「……ご、ごめんね、一ノ瀬君。私そんな風に思われてるだなんて全然思ってなくて」
「大丈夫です。俺の告白が急すぎると思われても、仕方ないとはわかっているので」
「そ、そっか」
恥ずかしながら、誰かから告白されたこともなかったので、どうしたらいいかわからなかった。一ノ瀬君はそれを感じ取ったのか、悩む私にさらに気持ちを伝えてくれた。
「答えは急いでないです。ゆっくり考えてからでもいいので、返事がほしいです。……ただ、もし可能性があるなら、俺は頑張ります」
そこまで真摯な姿勢を取ってもらうのに、悩まずに断るのも失礼な話だ。
「……うん、わかった。ごめんね、少し考えさせて」
「はい」
この告白を最後に、他の写真部部員と川端先生と合流して帰宅することになった。
帰り道は主に田宮君と、他の一年生に撮った写真の感想を伝えていたので、一ノ瀬君と話すことはなかった。
どうしたらいいかわからないまま、私は家に到着するのだった。
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