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そう言うと、一ノ瀬君はカメラを取り出した。そして、私の隣に来て写真を見せ始める。
「撮影会だってわかってても、先輩ばっかり撮ってました。……好きすぎて、ずっと見ていたんです」
そこには、確かに色んな表情をした私がいた。これだけ豊富な表情は、ずっと見ていないと、撮れないとは思う。
写真を一枚一枚丁寧に見ていく。自分の顔なんてこんなそうそう見ないだろうというくらいの枚数があった。
全て見終わると、カメラを返して一ノ瀬君の方を見た。
「……好きです、先輩。俺と付き合ってください」
そこまで言われて、説明されて、写真まで見て。
私はようやく、一ノ瀬君の好意は本当で本気の物なんだと理解できた。
撮影会で告白されてからというもの、私の気持ちは一体どうなんだろうと何度も考えた。
一ノ瀬君は、後輩としてこれからも成長を見守りたい相手。
……それだけなのだろうか。
あの日。花と水に囲まれた一ノ瀬君に、無意識にシャッターを切った。その理由をずっと考えていた結果、一つの答えが見つかった。
私はきっと、あの瞬間一ノ瀬君に惹かれたんだと思う。
……もっといえば、あのひこうき雲の写真を見た時から、きっと。
彼の好意に比べたら、本当に小さなものだけど、それでも惹かれていたのだ。
「……私は、こういうことが初めてで」
「はい」
「一ノ瀬君の好きと同じかはわからないし……これが好きなのかわからないけど……それでもいいのかな」
「大丈夫です。今より好きになってもらえるよう、俺が努力するので」
ふわりと微笑む一ノ瀬君は、とても優しい顔をしていた。その表情も、好きだなと思っている自分がいた。
あぁ、答えは出てたみたい。
「……よろしくお願いします」
そう微笑むと、一ノ瀬君はさらに笑みを深めた。
「ありがとうございます……!」
嬉しそうな声色は、私の頬も緩ませた。
こうして私は、一ノ瀬梓とお付き合いをすることになったのだった。
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