他愛のない時間

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 夏休みが明けて、二学期が始まった。  私と一ノ瀬君はというと、部活のある日もない日も一緒に帰るくらい。時々ラインをしながら、時間が合えば通話をしていた。 「もしもし一ノ瀬君? 聞こえてるかな」 『はい、先輩。聞こえてます』 「よかった」  今日何があったとか、どんな写真を撮ったとか、そんな他愛のない会話をしていた。 『今日は何か撮りましたか?』 「うん。今日は雨だったでしょ? だから雨上がりを撮ろうと待機してたんだ」 『撮れました?』 「いいのが撮れたよ」 『……早く見たいです』 「それは文化祭当日のお楽しみかな」  何せ一ノ瀬君からも撮影し終えれいるはずなのに、写真を見せてくれないので。 『それは残念です』 「来週には見れるよ」 『待ち遠しいですね。先輩のクラスは何するんですか?』 「うちはお化け屋敷だよ」 『なにするんですか?』 「……ただの受付だから。来てもいいけど、私は何もしないから」 『そうなんですね』  受付と言うのは嘘なのだが、本当のことは言いたくなかった。 「一ノ瀬君は?」 『うちはアイスの販売です。最初コスプレ喫茶になりかけたんですけど、C組がコスプレ喫茶らしいので、かぶりを避けました』 「そうなんだ。……見に行こうかな」 『行ってあげてください。椎名達きっと喜びますよ』 「一ノ瀬君の方にも行くね」 『……待ってますね』  顔が見えなくても、今きっと一ノ瀬君が微笑んでいるんだろなと想像できる。その後も、話題の中心は文化祭だった。それでも話しているだけで楽しくて、時間はあっという間に過ぎていった。 「それじゃあ一ノ瀬君、またね」 『……先輩』 「うん」 『もう少し声、聞きたいです』 「!」  これは付き合い始めてからわかったことなのだが、一ノ瀬君は意外にも甘えてくることがある。最初の方はそれに心をやられて、すんなりと聞いていたのだが、その結果何時間も話すことの繰り返しなので、甘やかしすぎてはいけないと学んだ。 「今日は日曜日だから、ここまでにしよう」 『駄目、ですか』 「うっ……」  ここで駄目と言えない辺り、私は一ノ瀬君に弱いなと感じてしまう。 「あと十分だけだよ?」 『はい、ありがとうございます……!』  承諾をすれば、毎回驚くほど喜んでくれるので、受け入れてしまう悪循環となっていた。  結局私はその日、プラスで一時間電話をしてから眠りにつくことになった。
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