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手作り弁当
先日、カレと別れた。
次の日、新しい彼氏ができた。
いつも友達を数人引き連れて登校し、学校の敷地内に入るや黒山の人だかりができる。
頭も良くて、後輩達に囲まれて勉強を教えていることもしょっちゅうで。
放課後は日替わりで様々な部活に参加している。なんなら本来の部員の方がベンチを温めていたりする。
もちろんイケメンだ。
これだけスペックの高い人と付き合えるのだから、ラッキーとしか言いようがない。
ただ、普段は話す機会が圧倒的にない。
前述の通り、休み時間もランチの時間も人に囲まれているからだ。
このままじゃ、自然消滅しちゃうかも。
かといって、人垣をかき分けて話しかける気合いがない。
なんてモヤモヤ考えていたら、人の輪のいちばん外側にいる子が気配に気づいたか振り返った。
知らない女子だ。私に向かってドヤ顔してきた。
こっちもお返しにドヤ顔してやったら、その子びっくりして顔をそむけた。
ふふん、あんたみたいにいちばん外周にいる子なんか恐るるに足らず。人を押しのける勇気がないんだから。
むしろ、彼氏のすぐそばにいる子の方が危険でしょうよ。度胸が違う。その子達の誰かに心変わりしたらどうしよう。
結局、メッセージのやり取りで初デートの約束を取り付けた。
当日が楽しみだ。
そうだ、記念に録音するのもアリかも。
本当は録画した方が臨場感あって良いんだけど、誰がカメラマンやるの? 私? それはおかしくない?
というわけで小型ボイスレコーダーを用意した。スマホで良いじゃないかって? デート中に操作する方が失礼すぎ。
勝負服の素敵ワンピースを眺める日が続いた。
なぜよ?
彼氏が、後輩達から翌日の抜き打ちテストに備えて勉強教えてとせがまれてドタキャンした。
抜き打ちテストって、前もってわかるものなの?
「あの先生の出題の仕方がエグいの知ってるだろ? 助けてやらなきゃ、かわいそうだろ」
彼氏の優しさに私も「確かに」と同意するしかなかった。
後輩達も災難だな。テストなんか受験だけで十分だろうに。先生だって多忙だというのはネットで最近知った。わざわざ定期試験以外にテストやらなくてもいいじゃないか。
再びデートの約束をしたけど、今度は野球の練習試合でドタキャン。いや部外者を入れる意味よ。謎。
また約束したんだけど、サッカーの練習試合に参加するからと、ドタキャン。
もう一生メッセージのやり取りで終わるんじゃないだろうか。
なぜみんなこぞって私たちのデート当日にヘルプ頼むわけ? 誰かが情報を傍受して妨害したいの? それとも彼氏本人が漏洩してるの? だとしたらあまりに意味不明。
付き合い、やめようかな。
悩む日が続いた。
けど、やっとデートが実現した。
少年漫画原作の舞台劇を楽しんだ。
終わった後はちょっとおなかがすいた。
「混雑しないうちに入っちゃおうよ」
私は、劇場内にあるカフェを指した。
ショーケースにパンケーキやパスタ、ハンバーグといったリアルなサンプルが並んでいる。
あれ? 彼氏の顔が暗い。
「デートといったら普通、手作り弁当だろ」
ため息をつかれた。
「そう?」
初デートでいきなり要求されるとは思わなかったわ。
そもそも、劇場内は飲食物の持ち込み禁止だった。
「まぁ初めてのデートだし? 次からちゃんとやるってことで、今回は大目に見てやるよ」
彼氏は仕方なくという顔でカフェに入っていった。
奥のふかふかソファーの席に陣取り、メニューを広げる。
「しっかし、これから俺の彼女としてやっていけるのか?」
彼氏はまたため息をついた。
返す言葉がない。
料理苦手なんだもん。
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