再会

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弁護士事務所の受付の方に挨拶をして、エレベーターで降りてビルの外に出ると。 日差しや街路樹の緑が眩しく、絶好のお買い物日和だった。 「まさか、黒須君に出会うなんて」 ふっと、何とも言えないため息が溢れてしまう。 法律事務所に来る前は、相談後にフラワーショップの店員として働く者として、気晴らしも兼ねて新しいフラワーショップのチェック。 そして、少しデパート巡りでもしようかと思っていた。 しかし、黒須君との再会や『契約妻』と言う事に直面して気持ちの余裕がなくなってしまった。 「今日は早く家に帰ろう。それにしても契約妻だなんて、頷いてしまったけれども。本当になっていいのかな。それに契約妻って、何をしたらいいんだろう」 駅に向かう雑踏の中、本心を吐く。 妻と言うのだから、きっと家事洗濯とか。妻の役割をするのだとは思うだけども……子供は流石に作らないと思う。 「契約妻だもんね。いつか契約が切れて、終わり……」 契約の間に、黒須君は私のことを思い出してくれたりするのだろうか。 でも、過去の事を忘れずに。自分の気持ちを優先してしまい、契約妻に二つ返事をしてしまった。そんな浅はかな私の事を軽蔑するかも知れない。 (思い出して欲しい、なんて言えないな) 心がちくりと痛み。手にした鞄の取ってをきゅっと握る。 「今はそれよりもちゃんと、お母さん達に今日のことを報告しよう」 九鬼氏の要求を突っぱね。心からの謝罪が無くても。向こうが悪かったとちゃんと決着が付いたら、母の気持ちが少しでも上向きになるのではと思った。 だから、胸の痛みを忘れるように。ひとまず契約妻のことを頭の片隅に無理矢理に追いやる。 (せめて、家にお土産は買っていこう) 気落ちして華道教室をお休み中の母や、弁護士事務所に行く私を心配してくれている祖母に、お土産をと思い。 駅のスタンドショップで和菓子屋があったと思い出して、そこで幾つか和菓子を購入しようと思ったのだった。
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