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中々、華道の精神を掴めずにいた。先生にお願いされて美化委員の活動の一環として精々、月に数回。教室にお花を活けて皆に喜んで貰って。それでいいかなって思っていた程度。
なのに黒須君は私が掴み損ねている、華道の精神。私が祖母や母から感じる、同様の折目正しさを黒須君に感じたのだった。
思えばそう言うところに、惹かれたのが最初。
(さっきの黒須君も物凄く落ち着いて、背筋もピンとしていて綺麗だった。変わらないな)
他に惹かれたのは所作が美しいとか。物を乱暴に扱うことなく丁寧。
筆記用具や鞄とかもシンプルな物を使っていて、流行りに流されないところとか。
黒須君は確固たる、自分と言うものを会得しているように思った。
(そうして、気が付いたら好きになっていた。私なんか全然子供ぽっかただろうな)
何しろ同級生の男子生徒と話すのが、なんだか気恥ずかしくて。女の子達とばっかり喋っていた。
そんなことを思い出し。ふと苦笑するとガタンと、電車の揺れを感じ。何気なくまた、前を見る。
目の前では学生カップルが、まだお喋りに夢中になっている。どうやら将来の夢について話しているようで、とても微笑ましい。
「……そうだ。黒須君のお家、裕福だったもんね。頭も良かったし。それで弁護士になったのかな?」
将来の夢を聞くような関係では無かった。
でも、再会した黒須君が弁護士になったのはピッタリだと思った。
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