再会

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(私が勇気を出して告白していたら、黒須君と将来の夢とか語りあったのかな) 目の前の学生カップルを見て。ついそんなことを思ったけれども。 当時、黒須君を好きな女子は私の他にも沢山いて、私はその中の『沢山』にしか過ぎない。 だから告白する勇気なんかなくて。 ただ想っていた。 デートしたら楽しいだろうな。 黒須君に合うお花をプレゼントしたいな。 ──結婚出来たらいいなとか。 そんな言葉を伝えるはずもなく。 時折、放課後にお花を活けていたら黒須君から『いつも花を活けてくれてありがとう。綺麗だね』って声を掛けて貰えるだけで充分だった。 けど、夏休みに入る前。転機が訪れた。 それはいつものように放課後、お花を活けていたら黒須君に声を掛けられた。 それは夏祭りを一緒に行こうと、言うお誘いだった。 いつも落ち着いた雰囲気の黒須君が、少し頬を染めて。目線を少し泳がせながら。照れくさそうに夏祭りを誘ってくれるなんて、夢のようだった。とてもとても嬉しかった。 勿論、直ぐに返事をした。 絶対に行く。台風でも行くと前のめりに返事をすると、黒須君は華やかに笑ってくれて。 ──俺も南さんが来るまで、ずっと待ってるよ。 と、言ってくれた。 なのに。 「なのに私、約束を破ってしまった。行けなかった」 小さく呟いたのと同時に、電車のドアが開いた。 気がつけば最寄り駅で、慌てて電車を降りる。 降りるとき、学生のカップルとすれ違う。その二人の姿に、思わず私と黒須君の影を重ねてしまう。 約束を守っていたら、こんな風に手を繋いで。お喋りに興じて、色んなところにデートしたかもしれないと。甘くも苦い妄想をしてしまいそうになり。 「もう。しっかりしないと」 小さく、頭を振って改札口を目指すのだった。
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