接触

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黒須君はダークシルバーのスーツを着こなしていた。まるでモデルみたいで、伸びやかに咲くカラーの花を彷彿させた。諸説あるがギリシャ語で「美しい」を意味する「カロス」が語源であると言われている、カラーの白い花。 そんな事を思ってしまう程に、存在感があった。 実際、黒須君は道行く女性達の注目を浴びていたけれども、その眼差しは私に向けられている。それだけで心臓がキュッとなる。 そんな黒須君の登場で、私も目を奪われてしまうが、はっとして何とか声を出す。 「く、黒須さん。どうしたんですかっ」 「そんなに驚かなくても。近くに寄ったので顔を見に来ました。良い所にお勤めされているんですね。櫻井さんにピッタリだ。あと、さん付けで呼ばなくても結構。呼び捨てでも構いません。妻になって貰うので」 「!」 さらりとそんな事を言われて、びっくりする。 同時に同僚達に聞かれてないか、周囲の様子が気になってしまうが黒須君は、至って落ち着いた様子で。 「そう、それと今からクライアントに会いに行くんです。その人が花が好きなので、手土産にしたいと思って」 すっと、眼鏡を触りながら花を見つめる麗人に見惚れてしまいそうになる。でも、今は仕事中だと自分に言い聞かせる。 (びっくりした。お店に来てくれるなんて。そうか、昨日名刺を渡しているから、ここの場所が分かったんだ。来てくれて嬉しいな) そんな気持ちは胸に秘めながら。下の名前で呼ぶことなんか出来ないと思いつつ。いつも通りを心がける。
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