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「来店して頂いてありがとうございます。嬉しいです。それなのに取り乱して、すみませんでした。えっと、手土産とかだったらコンパクトなミニブーケがお勧めです。相手の方の性別をお伺いしても、大丈夫ですか?」
自然な接客を装い。店内に案内して、案内カウンターでリサーチして話を聞くと。
クライアントはご年配の派手好きな女社長さんと言うとで、華やかで明るいものが良いかと思い。
オレンジカラーのダリア。イエローのカーネーション。ホワイトの差し色でかすみそう。この三つをメインでまとめてみた。
ビタミンカラーの見た目で明るいブーケが出来上がり、黒須君に差し出すと。
「とても綺麗だ」
私の瞳を見つめて言うものだから、私に「綺麗」と言われたかと。一瞬勘違いしそうになり視線を下げた。
「え、あ。ありがとうございます。お花、綺麗ですよね。これだったらデスクに飾っても、ワンポイントで目にも華やかで喜ばれると思います」
「ありがとう。立ち寄って良かった」
微笑して、黒須君はブーケの入った紙袋を受け取り。料金を支払った。
そのままお見送りをと、店の外に出たところで。
「櫻井さん。今日の夜のご予定は?」
「夜ですか? 特に何も予定はないですけど」
「そうですか。では、仕事終わりに迎えに来ます。車で来るから、そこのコンビニ前で待っていて下さい」
「え?」
「私の家に案内したい……俺のことを知って貰うには、俺の家で話す方が早いから」
突然の誘いと、一人称が『私』から『俺』に。言葉使いも私的なものに変わった。それだけでドキドキした。
普通だったら、こんな誘い乗らない。
でも誘ってくれたのはずっと好きだった黒須君。今の黒須君のことが知りたい。そんな気持ちから、すぐに小さく頷いて「分かりました」と、返事をしてしまった。
「じゃ、また後で」
そう言うと、黒須君は颯爽と店を後にした。
その背中を見送った後でも、しばらく胸のドキドキは止まらなかった。
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