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何しろ黒須君はスーツ姿でピシッと決めていて、相変わらずカッコ良くて。
このお店でも女性達から羨望の眼差しで見られていた。
なのに、私の姿はとてもラフな白のニットに紺のパンツスタイル。
場違いにも程がある。黒須君は学生のときから高嶺の花的な存在。元より私なんかが釣り合うような相手じゃ無いと、痛感してしまった。
そう思ってしまうと、承知してしまった『契約妻』は大胆な決断で身分不相応過ぎるのではと。今更、早まって決断をしてしまったと思うのだった。
だから食事中の会話は黒須君が色々と、私の職場の花屋のことや。黒須君の友達に記者をやっている人がいるとか。
色んな話題を振ってくれたのに、どこか上の空の返事になってしまい。
憧れの人との初めての食事は、散々なものにしてしまった。
デザートのティラミスアイスを食べ終わる頃には『君とは合わない。契約妻の話は無かった事に』とか言われ。このお店で解散されても、仕方ないと思っていたのに。
黒須君は愁眉を寄せながら「料理が口に合わなかったみたいで、悪かった。何が好きか教えて欲しい」と、言わせてしまい。気をつかわせてしまったと、慌ててしまった。
どうにか、そんなことはない。今日はちょっとお昼が遅めだったからそんなにお腹が空いてなくて──と、しどろもどろの返事をしたのにも関わらず。
黒須君は怒ることもとなく。
支払いをさらりと済ませ。私をまた車に乗せてくれて、いよいよ黒須君の自宅に向かうのだった。
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