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そして私の目の前のガラスのローテブルの上に、クリスタルグラスに注がれた水を「どうぞ」と、置いた。
美しいグラスを見つめ。
食器も格が違うと感じた。
ここまで黒須君との差を感じたら、一周回って私とは縁がない雲の上の人。初恋は実らない。そう思うとふと肩が軽くなった。
(黒須君みたいな立派な人の契約妻は私なんかじゃ、務まらない。こうして食事が出来て、お家にも来れた。それで充分)
弁護士の依頼は母を説得しよう。それだけは黒須君に受け持って貰おう。
そんな気持ちが強くなり、そろっと黒須君の様子を見ると。向かいのソファに座り、眼鏡のブリッジをすっと押して。口を開いたところだった。
「早速だけれども。契約妻の話をしたい。いいかな?」
ゆっくりと頷く。
断るにしても、いきなり断るのは良くない。まずは話を聞いてから、それからちゃんと自分の気持ちを言おうと思って耳を傾けた。
「俺が思っているのは最低でも一年は妻としての関係を持続して貰いたい。長くて三年を目処。松井所長や周囲が俺には『妻がいる』と認識して、馴染んで貰う期間がこれぐらいだと思っている」
しっかりと私を見ながら言う姿勢は、単刀直入で聞いていて分かりやすい。
「三年。リアリティありますね」
妻を務め、三年間を過ぎて離婚したと周囲に言ってもこのご時世。別に有り得なくはない話だと思った。
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