密着

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「籍は全ての事に納得がいったら、入れて欲しい。結婚式はしなくていい。代わりにウェディングフォトや身内だけの披露宴パーティは妻を演じて貰いたい。そして女性の大事な二十代の時間を俺と過ごして貰うのだから──毎月の手当を報酬として支払いたい」 「手当、ですか」 その言葉に黒須君は小さく頷いた。 「ここに実際に住んで貰い、妻と変わらない働きを俺は希望している。仕事は続けて貰って構わない。外から見て、俺の妻だと言う行動をして欲しいと言うことだ。休日には一緒に外に出掛けたりとか。そう言ったことも含む、報酬だと思ってくれて構わない」 契約妻を仮に請け負うとしても、別にお金なんか要らない。けれども、黒須君が言うことは『契約妻』を前提にしている。それを鑑みるととても、こちらに寄り添ってくれていると思った。 そして、やはりあの事が気になった。 それは子供のこと。きっと望んでは居ないとは思うけれども、黒須君はどう考えているのか気になってしまった。 断るにしても、これぐらいの疑問は聞いても良いだろうと思い。 目の前にあるグラスを手に取り、冷たい水をこくりと飲む。 口元に当たるガラスは薄作りで、唇への感触が心地よかった。唇を潤して、質問しようと思うと先に黒須君が口を開いた。
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