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「因みにだが、子供を作ってくれとは言わない」
胸の内を見透かされたかのような、その言葉にちょっと安心して。
苦笑しながらグラスを机の上に静かに戻して「そうですよね」と、呟く。
「しかし、性的交渉は櫻井さんが嫌じゃなければ、コミュニュケーションの一環として……セックスは『有り』だと考えている」
「えっ……えっ!?」
聞き間違えかと思ったけれども。黒須君はごく真面目に答えた。
「性欲は人間の三大欲求だ。その性欲を外で発散されるのは好ましくない。契約妻として一緒に生活はするが性的交渉はなし。それだと、いつか破綻しかねない」
「……な、なるほど」
言いたいことは分かった。
私が契約妻を請け負い。夫婦として生活をするとしよう。しかし、互いに好き勝手に性欲を外で発散したら。その相手を好きになったりすると、夫婦としての体裁を保つのが難しくなるだろう。
そうならない為にセックスをする。
しかしそれは愛情行為ではなくて──。
(だからって、そんなのは性欲処理だけの関係。セフレみたい……体だけの関係。契約妻なら、そうか。それも別におかしくないのかな。でも、普通はそんなのダメに決まっている)
そんな常識的な考えは一応出来た。
でも。ちらっと黒須君の顔を見て。いや、好きな人の顔を見て。
(私はそれでも黒須君とならして……みたい)
すぐに自己的な浅薄な思いに至り。恥ずかしくなって下を向く。
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