再会

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(私のことを忘れてしまった? 私は一目見て思い出したのに。私。真白です。高校二年生の時、同級生でした。でも……私が約束を破ったから。黒須君は呆れて私の事なんか。きっと忘れてしまったのかな) 高校生の時、交通事故で父が亡くなり。引越しをして、色々とあって『南』の姓から。今は母の姓『櫻井』を名乗っている。 髪も胸下まで伸びたし、化粧だって多少は覚えた。 だから、余計に私だと気付かれないのだろう。 黒須君の名前と佇まいを見た瞬間、黒須絢斗君に再会出来たと一瞬で分かった。 でも。かつての級友だと名乗るには当時、黒須君との約束を破ってしまった後ろめたさがあった。 その約束を破ってしまった苦い思い出は、本当の事を語るにはあまりにも時間が経過していて、唇を重たくさせていた。 (それに、私がここに居るのはお母さんが事故に巻き込まれてしまって、その事を相談しに来たのだから……) 辿々しくも相談ごとを伝える。 昔の事を懐かしく語る場合じゃない。 そう思うのに、過去の『黒須君』との思い出に囚われ。胸中では密やかに黒須君と、想ってしまう。 それ初恋は今でも燻り続けている証拠。 そのせいで胸が痛み。私だけがずっと覚えていたことに、切なくなり。 その所為で、この年齢になっても男の人と深く付き合ったことなんかない。 でも黒須君は弁護士なんて立派な職業に就いて、こんな凄いところで働いている。 きっと私と違って、色んな素敵な女性達とお付き合いだってして来たのだろう。 だから、私のことなんか忘れて当然。
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