再会

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そう思いつつ。なんとか相談事を伝えて。 俯いてしまったところに、はっきりとした言葉が耳朶を打った。 「契約妻。これは貴女にも利点がある。──先ほど貴女は誰とも交際していないと言った。誰にも頼る人がいないと。お祖母様とお母様の三人暮らし。そのお母様が十字路での車での接触事故に巻き込まれてしまった。防犯カメラの映像はなく、それをいいことに加害者からの謝罪はなし。挙句、加害者が車の修理費用をお母様に請求。貴女はそれが許せなくて。法律に頼って此処に来た」 はっきりと黒須君に言われ。 契約妻と言う言葉にびっくりするが、過去の事を思ってる場合じゃないと。 一先ずはただの相談者として。 しっかりと母の代わりに相談しなくてはと、気持ちを入れ替えた。 「その通りです」と、口を開いた。 自転車に乗って出掛けていた母は、十字路で一時停止線を無視した車と衝突してしまった。幸いに母に大きな怪我はなく、足を捻ったぐらい。幸いにも命は無事だった。 しかし、相手側は母がよそ見をしていた。車のフロント部分に傷が付いた言いたい放題。 おまけに謝罪も治療費もなし。 壊れた自転車とその場に茫然とする、母を置き去りにして去って行ったと言う。 (その後、通り掛かった人が母を病院に連れて行ってくれて、本当に良かった) その非常識な相手は地元の有名な名士な人で。九鬼史郎(くきしろう)氏と言う。 その有名というのも、どちらかと言うと悪名が高くて有名。 手広く飲食経営から、ラブホテルの経営などをしているがワンマン社長。一族経営で経営のやり方に逆らったら、あっと言う間にクビにされる。しかも、政治家にも顔が効くのだとか。 母は自宅の一軒家で華道教室を開いていて、そんな九鬼氏相手に波風が立つのを恐れた。 気後れしてしまい、事故の後。警察に相談する事を躊躇った。 それを良い事に先日。家に九鬼氏から三十万円程の、車の修理費の請求書が届いて、大変驚いたのだった。
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