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それでも。頭の中では真白と約束を交わした時の事がこびりついて、離れ無かった。
真白は白い頬を赤らめて『必ず行く』と言ってくれた。
その言葉に大いに期待して、蓋を開けるとこのざま。
「あの時は弄ばれたのかと思った」
ふっと苦笑して。
花を持ちながら靴を脱いで部屋に入った。
リビングに近づくと、いつもは感じない食事の残り香を感じた。
俺からするとこの広いリビングは味気ない白い箱のようなもので特段、思入れも何もない。
普通の部屋。
しかし、真白がいた。料理を作ってくれた。キッキンではまるで本当の恋人。いや、真白は契約妻を了承しているから、新婚夫婦のような戯れをした。
それだけで、部屋に不思議と初めて愛着のようなものを感じる。
キッチンに近寄り水を一杯飲む。
このキッチンで先程の真白の痴態を思い出すだけで、下腹部に熱が再び宿りそうになる──が。
真白が打ち明けてくれた、九鬼氏の事を忘れてはいない。
真白が話してくれたこと思い出し、下腹部に渦巻く熱が消え失せる。
代わりにずっと重たくて、黒い気持ちが広がる。
玄関で名刺を受け取り、後の文字を見た瞬間。名刺を燃やしてやりたい衝動に駆られた。
「九鬼史郎。誰がお前みたいなやつに真白を差し出すか。髪一本だって真白は俺のものだ」
九鬼史郎について真白には、言いそびれてしまったが。
実は真白から相談されるよりも前より、九鬼氏の名前やどんな事をしているかは知っていた。
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