執着

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最初。web予約からの相談者の名前を見て、まさかとは思っていた。 いざ会って見ると、一目見て真白だと分かった。 色白の肌や艶やかな黒髪は、白いシャツとオーリブのフレアスカートに良く映えていた。 学生の頃と変わらぬ面影を残した、顔は薄化粧に 彩られ。美しい女性に成長したんだと思った。 しかし弁護士事務所に来たということもあり。 緊張の面持ちで。不安気にその表情は曇っていた。 俺の名前を名乗っても、何か反応があるかと思ったが真白はただ不安げに瞳を揺らしていただけ。 ここに相談に来る人達とさほど変わらぬ様子に、俺だけが取り乱すことなど出来ない。 いきなり依頼者(真白)の相談事を無視して、自分の事を語ることなど、もっと出来る訳がない。 何でもない振りをしながらいつも通りに。まずは、相談事の内容を把握するのに徹した。 当初、姓が『南』から『櫻井』に変わっていたこともあり。真白自身の結婚や離婚トラブルの相談かと身構えたが。 蓋を開けてみれば母親のトラブルに関することでまずは、胸を撫で下ろした。 その流れでどうやら南の姓から櫻井に変わったのは母親の戸籍に入ったからだと、考えて間違い無いと思った。 それと同時に。間違いなく目の前の人物は真白だと分かり。 胸が騒ついて仕方なかったが、感情を発露させる訳には行かず。鉄仮面を被るしかなかった。
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