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そこに突然の真白の登場は予想外だった。
しかも誰のものにもなってないと分かった。
「そして、俺の事も忘れているのだと……」
弁護士事務所で再会を果たしたが、真白は俺を覚えている様子はなかった。
不安気ながらも淡々と相談事を話すだけ。
そんな態度を見てしまえば、俺の事を明かす気持ちにはならなかった。
高校二年生のとき。同級生でした。覚えていますか。夏祭りに誘った黒須です。貴女が好きでした。
──今も好きです。
なんて、口が裂けても言えるわけがない。
きっと、真白に取って俺は取るに足りない存在。過去の遺物ですら無いのだろう。
多分。父親との死別がショックで俺のことなど忘れてしまった。
夏祭りのあの日は真白に取って、思い出したく無い記憶。
もしくは、誰かと大恋愛をしてそれを引きずっている。
──とか。色んな理由があるのだろう。
だが、俺にはそんな理由どうでもいい。
仮に誰か想っていると聞かされると、その相手をこの世から消し去ってしまいたくなる。
本当の理由なんて今更、聞きたくもない。聞いたところで過去は変えようがない。
「だから、真白。俺は昔のことなんて聞かない。今は真白の未来にしか興味がない」
素直に口説いて恋人になることも一瞬、考えが過ったが、そんなの手緩い。
この奇跡のような巡り合わせを、無駄に成らぬように。確実に俺の腕の中に留めるため。
相談事を聞き終え。困っている真白の悩みにつけ込んで『契約妻』を持ち出した。
真白もそれを了承した。もちろん、契約妻で終わらせる気なんかない。最終的に妻として必ず迎えいれる。
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