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九鬼氏は眉間に皺を寄せたのも束の間。
ぱっと表情を変えて、また笑った。しかし、先ほどより作りモノめいた笑いだった。
「ほぅ。では、即金で三十万支払ってくれるのか。そうか、そうか。いや、実は言い難いんだがね。外車の修理部品を、海外から取り寄せになることになりそうで。五十万ぐらいになりそうなんだが。申し訳ないが、改めて請求書を送らせて貰うよ。それでもいいかな?」
「──五十万!? ふざけないで下さい。ぶつかって来たのはそちらです。しかも母に謝罪もなし。こちらに支払う義務なんかありません」
「では、ワシと争うかね。お嬢さん。君のお母さんが開いて居る華道教室。今まで通りに続けられるといいが」
やれやれと、深いため息を吐かれる。
「それ、どう言う意味ですか」
「意味が分からない年齢でもないだろう。ふむ。気が立っているのかな。女のヒステリーは実に厄介だ。しかし、君は若くて美しい。それにまだ幼いから仕方ない」
「なっ」
あの宇喜田弁護士と同じ事を言われ。
あまりの言い草に言葉を失う。
怒りで唇を戦慄かせてしまう体験なんて、初めてだった。
九鬼氏はそんな私の様子を気にする事なく。手を大仰に振って。
あからさまに面倒くさそうな態度で、じっと私を見つめて更に言葉を重ねてきた。
「まぁ。最後まで聞きなさい。お嬢さん。ワシとて揉めたくはない。もっとお互いを知るべきだ。食事をしないと言うのならば。このホテルに部屋を取っている。そこでリラックスして話をしようじゃないか」
にぃっと嫌らしく笑ったかと思うと、ガタリと席を立ち上がる九鬼氏。
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