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腕を掴まれ、黒須君とは違う指の感触にぞっとした。
しかも強い力で振り解けない。
「っ、痛い」
「暴れるからだ。ワシに逆らうその態度。お転婆が少々過ぎるが、嫌いじゃない」
「い、いやっ。離してっ」
「そんなに暴れなくとも。ふふっ。そうか。ベッドまで待てないと言う訳か。分かった。ならば今此処で──」
九鬼氏は私を見つめ。半月状に瞳を歪ませたかと思うと、べろっと舌舐めずりをした。
「!」
その気持ちの悪さに悪寒が走り。
──黒須君、助けてっ! と、思った瞬間。
バンっと個室の扉が開いた。
その音に驚き。私も九鬼氏も動きを止め。思わず扉の方に視線をやるとそこにはネイビーブラックのスーツを着た、黒須君が険しい表情で堂々と入ってきて。
一目散に私の肩を抱き寄せて、あっさりと九鬼氏からの戒めを振り解いた。
鼻先にふわりとムスクの甘い香りを感じると、涙腺がじわりと緩んだ。
滲む視界の中。
黒須君は耳元でさっと「もう大丈夫だ。全部把握している。あとは任せてくれ」と、形の良い瞳を向けて小さく微笑した。
その笑顔に安堵して何度も頷くと。背後で、ぐうっと。獣が餌を食べ損ねたかのような、低い唸り声を聞いて。はっと九鬼氏に振り向いた。
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