再会

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私が頷くと、黒須君は一言「良かった」と実に冷静に呟いたあと。 すぐに相談内容を明瞭に答えてくれた。 民事として訴えるのなら少額提訴がいい。控訴は出来ないが長引くこともない。 謝罪もしない相手だったら、心からの謝罪を求めるより問題の短期解決を目指す。 相手の車の修理費用なんか払わなくていい。 こちらの負担が少なくすることを、視野にいれること。 さらに弁護士を付けたことで『謝罪した方が得』と相手側に、思わせるのも良い。 早期解決を提示して、落とし所をこちらで作る方が相手が受け入れやすいなど──淀みなく。 分かりやすく、ポイントを伝えてくれた。 その様は堂々としたもので、本当に弁護士になったんだと。同い年なのに凄いと尊敬の眼差しをむけてしまう。 でも、相談はこうして娘の私でも出来るけど、訴えるのは本人。母の意思が必要だと言うこと。 仮に訴えない方向で。示談と言うことでも力になると言われ。 それは暗喩的に『契約妻』はどんな形にでも、なって貰うと言う念押しにも聞こえた。 まずは母に相談してみます。と言うことを伝えると、相談時間の三十分はあっと言う間に終わった。 黒須君はこの後も他の面談があると言うことで、黒須君の名刺を貰い。 私も勤め先の名刺の裏に、スマホの番号を書いて渡した。一先ず連絡先を交換して後日に、今後のことを話そうと言う事で私も了承した。 何しろ黒須君との再会。 そして『契約妻』 思いもしない出来事で頭がいっぱい、いっぱい。こんな事が無かったらもっと、黒須君とお話ししたいとは思ったけれども。 今は一度、一人でゆっくりと頭を整理したかった。 だから、部屋を後にしようとした私の背中に。   『九鬼氏の案件とは。アイツの出番だな』と、小さく呟いた黒須君の声が聞こえた。 それは意味深に聞こえた。ただ、独り言だろうと思い。 「ありがとうございました。では……また」と。手短な挨拶だけをして。 さっと、部屋を後にしたのだった。
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