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私もあまりのことでびっくりして、耳を押さえていると。
黒須君がぱっと私の腕を引っ張って、部屋の外にへと促された。
部屋の扉に向かう、その途中。
すれ違い様に。黒須君はあの怪しいスタッフの人の肩を素早く、さっと軽くと叩くと。
怪しいスタッフの人はニヤニヤした口元から、キュッとシニカルに口元を引き締めて笑った。それを見たのも束の間。
黒須君によって、あっと言う間に個室から脱出した。
部屋の外を出るとざわりと、こちらを見る人達が
多数居たけれども。黒須君は気にする事なく、颯爽と店外に出たのだった。
手を引かれたまま。ホテルのフロアを横切り。
黒須君は非常階段の重たいドアをギイッと開き。逃げ込むように非常階段の踊り場に辿り付いた。
白い壁に灰色の階段。私達以外に人の気配はない。
踊り場はフロアと違い、少しひんやりとした空気が漂っている。驚きの連続で、上気した頬には心地よい温度でホッとした。
小さく安堵の溜息を吐くと。
黒須君が私の頭を撫でながら、ぎゅっと抱き締めて来た。
「真白。一人で良くあの下品な男に立ち向かった。偉いね。怖くはなかった? 大丈夫だったか」
さらに労わるように、私の額にキスを落とす。
それだけでも胸がドギマギする。
「だ、大丈夫です。黒須さん、来てくれて、ありがとうございます。でも、あの。今のって一体……?」
「あぁ。今からちゃんと説明する」
黒須君は額から唇をゆっくりと離し。
私に向けた眼差しは、眼鏡越しでもとても優しい。
先程の九鬼氏に向けていたものとは大違い。
その視線だけでも、私の事を想っていてくれると分かり頬が熱くなる。
沢山の疑問があるけど、安堵感からこのままちょっとだけでも。黒須君の胸に顔を埋めたいと思ってしまった瞬間に。
重い扉が開く音がしてはっと我に返り、扉の方を見る。
するとさっきの怪しいスタッフの人が、足音をカツンカツンと軽快に鳴らしながら。
こちらに近寄って来たのだった。
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