シングルノート

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「いやっ、私だけ悪いし!」 「そ。 でも橘って、いつもテイスティングしねぇよな」 ギクッ――― 彼の誘いを断ると、何やら怪訝そうな顔をされた。そんな彼の様子に私はギクリとする。 『テイスティング』とは一般に、香りを試すことを言う。朝日向くんは、毎回自分が創った香水をクラスメイト数人に試してもらい、その意見や評価をよく聞いて調香の糧にしているのだ。 そのテイスティングをする人物に制限や規則などはなく、誰でも彼の香水を付けることができる。しかし、私はそれをまだ一度もしたことがない。 気づいてたんだ………。 いつもさり気なく躱していたのに。彼が意外と周りを見ていたという事実に、私は焦った。 「えっと…っそれは……」 何か言葉、ことば…――― 「駄目だよ朝日向くんっ。 知優香はラベンダーが好きだも〜ん」 必死に思考を巡らせても何も浮かばなかった私の代わりに、前の席のふみちゃんが振り向いてそう言った。 「ねーっ」と同意を求めてくる意外すぎる助っ人に、私は内心驚きつつ、首を縦に振った。 助かった……。 ナイスふみちゃんっ、ありがと!
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