シングルノート

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―――――――――――――― カチャカチャ――― お母さんが食器洗いをしている音に耳を傾けて、私はソファに寝転んだ。 結局、ご飯はあまり食べれず。空腹感こそ感じないものの、口内中を得体のしれない苦みが支配していた。 ―――味覚障害。 これが、嗅覚障害以外に患っている私の病気。嗅覚とは違い、味覚は日毎によって症状が変わった。 普通の人と同じような日もあるし、何を食べても全くの無味になることもあった。かと思えば、今日のように幻味を感じることもある。 お医者さん曰く、嗅覚と味覚は密接な関係にあるらしく。嗅覚がなければ、風味の識別を上手く出来なくなり、結果、味も感じにくくなるのだとか。 「知優香。 さっき、嘘つこうとしたでしょ」 カウンターの向こうで、お母さんの声がした。怒りの感情は入っていないけど、少し怖い。 「うぅ……でも無理でした。ごめんなさいっ!」 顔を上げると、お母さんと目が合って萎縮する。 折角のお母さんの手料理だ。美味しいことには間違いないのだろうし、きちんとした感想を言ってあげたかったのが本音。 だけど、お母さんが私のそういう態度を好まないのは知っていた。今も「全くもう、」と言いながら、その表情は哀しげだった。
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