シングルノート

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「学校では、病気のこと隠してるんでしょう?」 「……うん」 小さな溜め息とともに、学校の話が出てきて、私は少し俯いた。クッションをキュッと握る。なんとなく、お母さんの言いたいことが分かっていた。 「でもねっ。 意外とやってけるんだよ、これがさあ!」 だから心配しないでね、という意を込めて、私は笑顔で親指を立てた。私が笑ってみせると、お母さんも絶対に笑顔を返してくれる。これだけは確信を持って言えること。 「知優香が強くて元気な子ってことは、お母さんもちゃんと知ってるのよ。 ……ただ、もし何か困ったことがあったら、必ず誰かに言いなさい」 「うん、分かってるよ。約束」 『家族間に隠し事は無し』これが我が家の決まり事。お母さんの口癖で、破ってはならない約束だ。 家族の中で私が一番言われてきたと思う。それはもう、耳にタコができるほど。 でも実際のところ、嗅覚や味覚に対して困ってることは本当にない。 そりゃあ、莉央やふみちゃんたちともっと香りの話でも盛り上がりたいとは思うし。朝日向くんの創る香水だって嗅いでみたい。 だけど、願って叶うほど世界は優しくないってことくらい、遠の昔に知ったから。治るかも、なんて期待もしない。 嗅覚がなくても、味覚が弱くても―――生きていけるのだから、それでいい。今が楽しくて幸せだと、私は本気で思っている。
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