シングルノート

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「え、振りたい! ね、良い?!」 「いや、お前もう香水してんだろ。 俺は別に良いんだけど、混ざんぞ?」 「う、知ってれば付けてこなかったのに……」 指摘されて莉央が悔しそうに頭を抱えた。彼女はいつも、彼の創る香水を楽しみにしているから、ショックが大きいのだろう。 でもこればかりはどうしようもない。朝日向くんが新作の香水を持ってくるのは不定期だし、誰も予測は不可能だ。 莉央の落ち込む姿を見て、他に「付けたい!」と言っていたクラスメイトたちも遠慮したみたい。莉央は「折角なんだし振ってみなよ」と皆んなを促していたが、丁度そこで予鈴が鳴ってしまった。 「ま、今日俺が一日試して。 余程駄目じゃなけりゃ明日も持ってきてやるよ」 朝日向くんが放った一言を締めに、皆んなそれぞれ自分の席へと散っていった。莉央も「ありがとう」と笑みを浮かべ、私に「またっ」と手を振ると、自分の席へ戻った。 朝日向くんが創った新しい香水、かぁ………。 「橘、振ってみる?」 「え、私っ?」 「ん。気になってるみてぇだったから」 突然、横から声をかけられて驚いた。どうやら、無意識のうちに朝日向くんの机に乗った小瓶へ目がいっていたらしい。 彼の真っ直ぐな瞳に射抜かれて、少しドキッとした。莉央やふみちゃんたちと一緒にいるときはよく会話するが、今のように一対一で話すのはたぶん、初めて。
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