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第一章 三千万の借金
「坂下さん。
盛重本部長が来てるから、コーヒーを出しておいてくれないか」
「はい」
「……すみません。
それで……」
一瞬だけ携帯での通話を中断し、私にお茶出しを頼んで右田課長は忙しそうに去っていった。
私も立ち上がり、給湯室へと向かう。
「……どっち、なんだろう?」
マシンからコーヒーを淹れかけて、止まる。
うちの会社には盛重本部長がふたりいる。
盛重海星開発本部長と、盛重一士営業本部長だ。
「たぶん、一士本部長のほうかな」
そう判断し、お湯を沸かす。
海星本部長はペットボトルのお茶でも気にしないし、そもそも社員にお茶を要求したりしない。
一士本部長は来たらコーヒーを求めてくるし、しかもそれはきちんとドリップしたヤツだ。
ならきっと、これは一士本部長に違いない。
それに間違っていても、海星本部長なら文句を言ったりしない。
一士本部長だったらたったこれくらいで叱責され、左遷させられかねないが。
「お待たせしました」
「はぁっ」
入ってきた私を見て、一士本部長はあからさまにため息をついた。
だからこそ、右田課長は誰でもない、私に頼んだんだと思う。
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