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曖昧に笑って断る。
「少しでも悪いなら早めに病院に行ったほうがいいぞ」
「そうですね。
でも、大丈夫ですから」
なんとなく原因に心当たりがある。
しかしまだ確定させるには時期が早いので、もう少し言わないでおきたかった。
その日は砺波さんが所属している事務所で、右田課長――右田さんとの話し合いの場が持たれていた。
「あれは無理矢理ではありません。
彼女も気持ちのうえでは同意していたはずです」
すっかりやつれ、こんな状況になっているというのに右田さんはまだ、一士本部長を庇うんだろうか。
彼は子会社のマンション管理会社へ出向させられ、酷い扱いを受けていると聞いていた。
「右田さんは一士本部長に命じられて、させられたんですよね?」
私の問いで彼は一瞬、身体を強ばらせたが、すぐに首を激しく横に振った。
「違います。
私の意志でやりました。
全部、私の一存でやったことです」
なぜこんなに、彼は一士本部長を庇うんだろう。
誠実な彼らしくない言動は、私を戸惑わせるばかりだった。
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