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「高野森重工」
海星がその名を口にした途端、右田課長はぎくりと大きく身体を震わせた。
彼の視線がおそるおそる、怯えたように海星へと向く。
それは喋ってくれるなと懇願しているようだった。
「ああ。
元高野森重工さん、ですね。
そちらのご夫婦が右田さんには感謝してもしきれない、自分たちが首を括らずに済んだのは右田さんのおかげだと、感謝していましたよ」
その場に似つかわしくないほど、海星がにっこりと笑う。
「……どこまで知ってるんですか」
「さあ?」
海星がとぼけてみせ、右田さんはため息をついて気が抜けたように椅子に座り込んだ。
「話しますよ、全部。
もう、失うものなんてないですからね」
自嘲するように笑う右田さんはすべてを投げ出しているようだ。
尊敬していた上司のそんな姿は悲しくなる。
「あなたたちが思っているとおり、私は弱みを握られて盛重本部長に脅されていたんですよ」
脅されていたのはわかる。
でも、そんな弱みを右田さんが握られるなんて、それこそらしくない。
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