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1.最初の人生
どうしてこうなった?
思い出そうとするけれど、記憶は霧の彼方にあるみたいで、何ひとつ思い出せない。
浮かんでくるのは、義賊ジュリアン・ド・ラムーの顔。私の生涯で、たったひとり愛した御方。
長く伸ばした黒髪をひとつに束ねた、鋼の塊のような体つきの、男らしく優しい人だった。
ジュリアンは義賊と呼ばれていたけれど、実際には物を盗んだことは一度もない。
不正を働く商人や貴族、聖職者の犯罪や隠し財産を暴くことに腐心していた人。貧しい庶民に、本来彼らの物だった富を取り戻してやっていただけなのよ。
でも、そんな彼も、『盗みを働いた』と呼んでいい行為がひとつある。それは、私の心を盗んでいったこと。
ほんの束の間だけど、私たちは深く愛し合った。
愛するジュリアンは、ここに来てくれていないかしら。私は、埃っぽい処刑場を断頭台から見下ろした。
ふふ、無駄な足掻きね。彼が来ているはずないわ。彼はお尋ね者なのよ。国に一歩足を踏み入れた瞬間、逮捕されて処刑コースだもの……。
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