水族館の男

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水族館の男

dbd659d5-cead-4256-9a1d-6e6360b5a260  そのお客さんはよく、とある大きな水槽の前で、その生物を何時間も、飽きることなくただじっと、眺めていた。 「お好きなんですか?」  言いつつ、飼育員は水槽にむかい、指を指す。 「ええ。好きですね。と言っても俺がこいつを好きになったのは、つい最近のことでして」 「かっこいいですよね。僕も子どもの頃から好きで。そんな気持ちがこうじて、水族館の飼育員になったくらいで。お客様はなにか、好きになられたきっかけでも?」  この人と仲良くなりたいかも。  だって毎週の休日にこの水槽の前に立っては、何時間も黙って、熱心に眺めているのだから。  そんな高揚さえみせる飼育員の横で、男は飼育員の方をふり返ることなく、目の前の巨大な水槽で、巨大を気のむくまま眺める男はやがて、ぽつりと漏らした。  飼育員にだけ、聞こえる囁きで。
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